クルマの行く末

エンジニア秀がクルマ業界動向や技術、スタイリング、マーケティングなどを分析とともに書いていくブログ

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完全自動運転用センサーをTesla自腹で全車に装備

メディアでは大きくフォーカスされていないですが、10月17日にTesla社はかなり思い切った取り組みを発表しています。

10月19日以降に生産される、Model S、Model Xなどの既存モデルの全てに、将来の完全自動運転に対応するための装備(カメラやセンサー)を、Teslaのお金で付けるというものです。
10月19日(米国時間)、テスラは今後生産されるすべてのテスラ車に完全自動運転機能を持つハードウエアを搭載することを発表した。 (中略)

今回発表された(完全自動運転向けの)新型ハードウエアは何が変わったのか。まず外界の状況を認識するカメラの数が従来は1個だったのが、今回8個になった。これにより車の周囲360度、最長250メートルの範囲を認識する。12個の超音波センサーは、従来比2倍の距離までの物体を検知する。また、コンピューターの処理能力は40倍になり、1秒に12兆回の計算を行うのだという。

(記事後半、マスク氏インタビューより)今回の完全自動運転機能の場合は、約8000ドルにまで積み上がっている。一方で、旧型は3000ドルほどだった。
記事引用:東洋経済オンライン 2016/10/22
まだ収益が出ていないTesla社が、さらに収益を悪化させるような事をするのか?

ビッグデータを自ら作り、自動運転ソフトウェアを改善

自動運転で難しいのは、妨害物も少なく走行環境が限定された高速道路よりは、標識も様々で横から何が出てくるか分からない一般道の走行。

人間が運転するにしたって初めての道、初めて訪れる地域では、迷っちゃいますよね。

自動運転ソフトウェアも同じ。あらゆる道を、様々な時間帯で何度も走って、この道はどこに気をつけるなどを覚えていく必要があります。それを自動車メーカーがアメリカ全土を自ら走って検証するのは、時間的にも社員の人数的にもほぼ不可能。

なら、顧客に販売するクルマにカメラを付けてしまえ!と思ったのでしょうね。カメラ8個とスピードセンサー、加速度センサー、GPSからの情報が、常にクルマから自社に送信されてくれば、自動運転ソフトウェアを検証するためのビッグデータを作ることができます。

そして、そのビッグデータで学習させた自動運転ソフトウェアを、今度はクルマにデータ配信して、ソフトの安全性の検証もできてしまうそうです。
当座はハードウエア搭載車を「シャドーモード」の状態にして完全自動運転機能の検証を行う。シャドーモードでは、ハードウエアを動作させながらも実際に車を動かすことはしない。

実際の使用を想定しながら、ソフトウエアが正しく判断して事故を防げたか、あるいは防げなかったかというデータの収集を行う。自動運転の場合のほうがそうでない場合よりも、統計的に有意なレベルで事故率が低くなることを示せるようにする。そうすれば規制当局も懸念を払拭できるだろう。
自動運転における事故率の低下を事実に基づいて提示できれば、顧客の不安も少なくなるでしょうし、訴訟対策や保険にも活用できるのだと思います。

ちなみに、カメラ8個とGPSのデータを蓄積すれば、道路地図データも作れてしまいそうですね。

センサー費用は後から回収

そのように自動運転ソフトウェアを学習させながら改良し、いずれ正式リリースしたら自動運転のオプション価格を設定して、センサー費用を回収するのだと思います。
車を購入するときには2つのオプションがある。8つのカメラを搭載した完全自動運転と、カメラを4つに絞った「エンハンスド・オートパイロット」だ。「エンハンスド」の場合は、従来のオートパイロットにカメラが3つ加わったものというイメージだ。高速道路上の自動運転が可能で車線変更や追い越しなどができる。

やっていることはIT企業そのもの

なんか、Tesla社を見ていると、売っているものはクルマというハードウェアですが、その中で動くソフトウェアや開発して提供するサービスは、もはやIT企業そのもの。

クルマを動かすソフトウェアを自動アップデートするなど、旧来のクルマ会社とは異次元の遺伝子を持っていると言えます。

先日、トヨタがマイクロソフトと、GMがIBMと提携するなどのコネクテッド関連の動きについて書きましたが、自動運転の実用化に関してはTeslaは一足先を行っているような気がします。

これまでの自動車メーカーが、どれだけIT企業寄りのサービスに乗り出して行けるか?トヨタメルセデス・ベンツ、上記のGMは既に発表していますが、他メーカーからもまだまだ出てくるかと思います。どのようなサービス競争が展開されるか、楽しみですね。

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Hyperloop
Teslaの創業者、イーロン・マスクが個人的に所有している会社(と言う表現も凄いが)、Hyperloop One社が夢の超特急、Hyperloopをアラブ首長国連邦に建設すると発表しました!
Hyperloop One(H1)とアラブ首長国連邦(UAE)は、初のハイパーループシステムの建設を目の前にしている。H1は今日(米国時間11/8)、初の商用ハイパーループ輸送システムをドバイ-アブダビ間に建設することを発表した。
運行距離は99マイル(159.4 km)で通常車で約2時間かかるところをハイパーループならわずか12分で行けるとH1は約束した。
記事引用:TechChrunch 2016/11/8 
Hyperloopは、イーロン・マスクが2013年に構想を発表した交通システムで、時速1200㎞で走る超高速交通システム。リニアモーターカーより速いです。160kmを12分ですから、東京~名古屋が25分ぐらい。爆速ですね。
Hyperloopシステムに馴染みがない読者のために説明すると、これはもともとイーロン・マスクが発案したテクノロジーで、減圧したチューブの中を高速でポッド式の乗客カプセルを走らせる新しい交通システムだ。真空に近いチューブの中は空気抵抗がゼロに近い。磁気浮上と組み合わせることによって大幅に抵抗を軽減し、従来の交通方式の速度限界を大幅にアップすることができるとされる。マスクは発案者ではあるものの、このシステムに割く時間がないとして、自身では実用化を手がけないと述べている。
記事引用:TechChrunch 2016/7/7
下記の絵を見れば、なんとなくイメージが湧くでしょうか。土管のような大きなチューブの中を、Podど呼ばれる円筒形状の乗り物が走っていきます。
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その高速移動Podの中には、さらに小型の乗員用Podがあって(ほかにも貨物用Podなどもある)、その中はこんな快適空間のようです。高速で走るのにシートベルトなどはないみたいですね。急停車などは想定されていないのでしょうか。
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イメージ動画では、乗員用Podが、駅から自動で町中に走っていく様子などが、出てきます。Hyperloopの駅でタクシーに乗り換えることもなく、乗員用Podが駅から出て、目的地まで自動運転で走っていくイメージのようです。その辺は、さすがTesla関連会社という感じです。


ただ技術目線で見ると、Hyperloopのチューブ内は減圧状態で、乗員や荷物が降りる駅は、通常気圧なのでその気圧差をどこで調整するのでしょうね。水面高さを調整する運河のように、減圧チューブと駅の間に気圧調整区間などを設けるのかもしれません。

という細かい話は置いといて、この画像や動画から見えるのはやはり少人数の移動システムということ。日本の新幹線やJR東海が建設開始しているリニアモーターカーは500~1000人ぐらいの乗員数なので、そこは全く違うコンセプトと言えます。 

大規模インフラが必要な交通システムなのに、少人数しか運べないとなると投資回収はできるのか?不安になりますが、そこは営業運転されてみないと分かりませんねー。

と言うわけで、いつもとはちょっと違った交通システムの話題でした。

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何かと話題の電気自動車メーカーTeslaが、日本国内でもSUVタイプのModel Xを発売しました。価格は税込み895万円から。お値段は高いですが最高時速は250 km/hで、3.1秒で時速100 kmまで加速するハイパフォーマンスが売りです。

一番の特徴は上の写真のようにリヤドアが上に開くファルコンドア。一般にはガルウィングドアのほうが通じるでしょうか。

それと下の写真のような「現在生産されている自動車で最も大きな全面ガラス製パノラミック ウインドシールド」、つまりフロントウィンドウです。
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これらのガルウィングドアとフロントウィンドウですが、顧客目線で見るととても良いのですが、エンジニア目線で見ると「アメリカで良くこれを出したなー。すごいなー」と思います。

なぜなら、アメリカには他の国に無い安全性能試験があって、それがとても厳しいからです。横転(ロールオーバー)した際にクルマが自重でつぶれてしまわない様に、ルーフ強度試験というのがありそれが最低レベルで自重の2.5倍以上(Marginal:余裕有り評価。Good評価には4倍)必要だからです。

評価動画はこんな感じで、ルーフの斜め上から押しつぶすような形で力を加えていきます。
通常のクルマには、このような荷重が加わる部分にはボディーの骨格が通っていて、その荷重を分散して強度を確保しています。下の写真はボルボのSUV、XC90のボディー骨格です。赤い部分はとても強度の高い材料を使っていて、ボルボは最高レベルの安全性能を確保しています。
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ですが、Tesla Model Xは上記のガルウィンドア、パノラマフロントウィンドウで、その部分の骨格が無いのです。(上記の骨格写真だと、フロントウィンドウの上、リヤドアの上に相当する骨格が無い)

さらに、通常のクルマは乗員スペースとは違うところに一番重いエンジンが載っていますが、Model Xは乗員スペースの下に一番重いバッテリーが載ってます。つまりクルマがひっくり返るとバッテリーが乗員スペースの上に来て、ボディーに載っかってくるわけです。

そんな構造的な悪条件にも関わらず、Teslaは下記のように述べてます(ホームページより)
米道路交通安全局(NHTSA)によるModel Xの衝突試験はまだ行われていませんが、テスラが行った社内試験の結果によると、Model XはSUVとして初めてすべてのカテゴリーで最高評価を獲得することになるでしょう。
うーん、どうやって安全性能を確保しているのか。謎です。

自動車業界や雑誌の分解調査レポートを待ちたいですねー。
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